フードロス削減と就労支援にも寄与する米粉ラングドシャ

名古屋市を中心に就労支援B型事業を運営する株式会社IBIS東海(アイビストウカイ・以下IBIS東海)では、施設外支援として洋菓子の製造・販売でも利用者と社会のつながりを育んでいます。

「グルテンフリーでもおいしい」がコンセプト

関連会社の株式会社HUGアイビスが、パートナー企業と企画・製造・販売するグルテンフリーの洋菓子ブランド「HUG!(ハグ)」では、チーズテリーヌが看板商品。実は、その製造工程で廃棄されていた食品のアップサイクルで生まれたのが、この米粉のラングドシャです。その開発ストーリーを、HUGアイビス代表取締役の山嶋美和さんに聞きました。

「チーズテリーヌをつくるとき、バニラビーンズを取った鞘を捨ててしまうのはもったいないという思いから、米粉のラングドシャの開発が始まりました」と山嶋さんは話します。冷蔵商品のチーズテリーヌ、チーズケーキだけでなく、常温商品をラインナップしたいという考えもあって、以前から米粉を原材料とする焼菓子をつくる相談をパティシエとしていました。
「米粉の生地を薄焼きするとパリパリ感が出るので、米粉の焼菓子をつくるならその食感を生かしたラングドシャだとほぼ決まっていました」と山嶋さん。

「グルテンフリーでもおいしい」がコンセプト

商品開発はまずプレーンの味を検討するところからスタート。「グルテンフリーでもおいしい」がコンセプトのチーズテリーヌ専門店の看板を裏切らず、生地にパルメザンチーズを少し加え、甘いだけでなく塩味をアクセントにしています。もともとは廃棄予定だったバニラビーンズの鞘は、細かく砕いてブラウンシュガーと混ぜ合わせて使っています。

パリパリ食感の決め手は、生地の薄さと水分量

パリパリ食感の決め手は、生地の薄さと水分量

「HUG!するラングドシャ」は、HUGアイビスにとって初めて原材料に米粉を使った焼菓子です。使用する米粉は製菓用に製粉された岐阜県産のうるち米を選びました。商品化の苦労と工夫も山嶋さんに聞いてみました。

「生地は米粉の分量によって焼き上がりの食感が変わってきます。求めるパリパリ感を残せる米粉の分量を決めるために何度も試作テストをしました。また薄い生地は湾曲しやすいので、適度な厚みを決めるのにも苦労しました」と山嶋さん。特に2023年11月に発売した新商品の黒ごまは、パリパリ感を残しながら、ごまのつぶつぶ感を途切れさせず、かつ粒が生地から飛び出さないように、プレーンよりも生地に少し厚みを持たせる必要がありました。

テストに時間をかけて決定した生地の厚さは絶妙です。黒ごまにもパルメザンチーズが入り、生地にごまを混ぜるだけでなく、サンドするクリームにもごまのペーストが練り込まれ、大人においしい味わいに仕上がっています。プレーンと比べてみると黒ごまのほうが少し厚いことがわかります。箱はプレーンと同じものを流用するため、詰め方を工夫する必要もありました。プレーンは横に、黒ごまは縦に各10枚をセットしています。

「湿気を含みやすいので手早く、割れやすいので取り扱いに気を遣いながらつくっています」と山嶋さん。製造工程での留意点も教えてくれました。

パリパリ食感の決め手は、生地の薄さと水分量
工場を新設、量産化で広がる商品展開と支援の輪

工場を新設、量産化で広がる商品展開と支援の輪

食感と味わいを追求した「HUG!するラングドシャ(プレーン、黒ごま)」は、大人にもおいしく、チーズテリーヌと同様にワインにも合います。自分へのご褒美はもちろん、ギフトや手土産としても人気。インターネット販売も好調です。

「お客様のレビューでは、『小麦粉のラングドシャはしっとりしているが、パリッとした食感はオリジナリティがあってクセになる』など、うれしい言葉をいただいています」と山嶋さん。「生地だけで販売してほしい」という声を受けて、常設の久屋大通店では、チーズテリーヌをラングドシャ生地でサンドした食べ歩き商品を開発。テイクアウト商品で一番人気になっています。また、商品バリエーションとして、ラングドシャを砕いてチョコレートがけしてドーム型に成形したチョコレートクランチを、イチゴ、ホワイト、抹茶の3色で開発中です。

IBIS東海では、砂田橋(名古屋市東区)に新たに工場を建設し、2023年3月より稼働。就労支援B型の利用者が、ラングドシャの型抜き、焼き上がった生地へのクリームのサンド、袋詰め、箱詰めなどの行程に携わっています。1回の焼成でラングドシャ400個ができ、最大で1日3回転させることが可能です。

取り扱い店舗も増え、名古屋・岐阜のギフトをセレクトした名鉄商店(名古屋市中村区)では、同店オリジナル商品として「HUG!するラングドシャ」とコラボ。同社の就労支援から一般就労へ移行した利用者が描いたイラストがパッケージに採用されました。

「それまで生産が追いつかなかったラングドシャが量産できるようになり、IBIS東海のご利用者を支援できるお仕事が増えました。お菓子づくりは、ギフトとしてもらう人もうれしく、つくる人は社会とかかわりを持ち、買う人はその応援ができ、私たちも売上をご利用者に還元することができます」と山嶋さん。グルテンフリーなだけでなく、フードロス削減、就労支援などにも寄与し、社会にもやさしいのが、「HUG!するラングドシャ」です。

工場を新設、量産化で広がる商品展開と支援の輪