米粉を生かした新食感のカヌレ、パッケージにも心を込めて

福島県郡山市の有限会社アサカサービスセンター(以下アサカサービスセンター)は、同社直営事業のパン工房ブォーノブォーノ チェントロ(郡山市朝日)で、新商品の米粉のカヌレを2023年11月に発売しました。今回、米粉を使った洋菓子の商品化に初めてチャレンジ。試行錯誤を重ねた開発ストーリーを、パッケージデザインと広報を担当した同社代表取締役社長の青木瑠依子さん、商品開発を手がけたシェフの荒川潔人さんと渡辺磨里奈さんにお聞きしました。

パン工房で本格的な米粉の洋菓子

アサカサービスセンターの母体は、脳と心を専門領域とするあさかホスピタル。患者さんの社会復帰や障害のある人を支援する各種サービス事業を展開しています。そのひとつが、自社経営のベーカリーカフェに併設したパン工房ブォーノブォーノ チェントロです。一号店は同じくあさかホスピタルグループのNPO法人の運営で郡山市安積に2004年に開業した小さなパン屋。現在の場所に引っ越して9年になり、地域の人々に親しまれています。

パン工房で本格的な米粉の洋菓子
パン工房で本格的な米粉の洋菓子

当初から体へのやさしさに配慮したパンづくりをしてきた同店では、これまでにも特注で米粉を使ったパンをつくることがありました。2022年の半ば頃からは、自店の商品展開でも小麦粉に米粉を配合した食パンをつくり、店頭のほかグループの病院の売店などでも販売。プレーンでやさしい味わいが人気です。

今回のプロジェクトに先駆けて、同店では米粉のシフォンケーキを商品化。米粉の可能性をさらに広げるために、2023年夏、シェフたちによる本格的な洋菓子づくりの挑戦が始まりました。

レシピ開発でカヌレの新たな食感を追求

「米粉を使った洋菓子の商品開発にあたって、自家農場(Kふぁーむ・福島県本宮市)で平飼いしている鶏の卵を使うというお題がありました」と青木さんは話します。農場は東京ドーム3つ分の広さで農業や畜産を営み、障害のある人たちも鶏の飼育や鶏卵の出荷に携わり、鶏の餌となる発酵飼料も果物や花を使って自分たちでつくっています。その卵の風味が最大限に生かされるお菓子として、社内で検討して選ばれたのがカヌレです。

レシピ開発でカヌレの新たな食感を追求

「製パンに適した米粉と製菓に適した米粉は異なります。まず、新たに製菓用の米粉を選定する必要がありました」とシェフの荒川さん。米粉は吸水率や粒子の大きさで仕上がりが変わるため、製菓用には新潟県産のうるち米で粒子の細かい米粉を使うことにしました。

一般的な小麦粉のカヌレは、表面がカリッと香ばしく、中身はもっちりとした食感ですが、シェフたちが目指したのは、米粉の特性をフルに生かしたカヌレです。「表面はサクサクと軽く、中身はカスタードクリームやプリンのように滑らかでとろける食感を目指しました」と渡辺さん。しかし、実際にはそのような食感を出すのは難しく、「最初は餅のようなものがたくさんできてしまいました」と振り返ります。また、カヌレの焼成は、最初は高温で焼き、落ち着かせてから低温で焼くのが定石ですが、米粉ではその温度設定が難しかったと言います。

温度設定を変えながら焼き方を工夫し、何度も試作・試食を繰り返して4カ月。ついに目指す食感の米粉のカヌレが完成。2023年12月、商品展開へとこぎつけました。
「米粉は小麦アレルギーの方も増えている中では、必ず向き合っていきたい食材でした。新たなチャレンジでシェフたちが諦めずにカヌレを商品化してくれました」と、青木さんもその努力を称えます。

レシピ開発でカヌレの新たな食感を追求

厨房機器を刷新、ギフト需要にも対応

パン工房ブォーノブォーノ チェントロのショーケースに米粉のカヌレが並び始めた頃、同時に青木さんが担当するパッケージも完成しました。グループのオーナーとも相談して決めた絵画作品をあしらった印象的なデザインのパッケージは、カヌレ6個用と8個用の2タイプ4種類のデザインがあります。いずれも福島県で活動する障がいのあるアーティストの作品を用い、パッケージの側面で作者とその活動を紹介しています。

「あさかホスピタルグループの社会福祉法人が、猪苗代市で運営するはじまりの美術館にゆかりのある作家さんの作品を使用させていただくことで、アーティストの作品のすばらしさや、その発想の豊かさも一緒に味わっていただければ」と青木さんは話します。こうして、卵の生産から、洋菓子の製造、芸術活動まで、米粉のカヌレの商品開発で障害者支援の輪がつながりました。

アサカサービスセンターでは、今回の事業でパン工房ブォーノブォーノ チェントロに新しい厨房機械を導入。カヌレを廉価化してより求めやすくするための量産体制が整いました。早速、12月にはギフトの予約注文も入り出足は好調です。また、農場での養鶏採卵からパン工房でのカヌレづくりまでのストーリーを追ったWEB広告用の動画も完成。同店のインスタグラムなどで展開し、2024年1月以降は月500個の販売を目指しています。

「カヌレの商品開発で米粉の大きな可能性を知ることができました。お客様のニーズがあり、いつか主役になるポテンシャルがあると思います」と青木さんが、今回の商品開発プロジェクトの感想を語ってくれました。

レシピ開発でカヌレの新たな食感を追求