米粉のさらなる可能性を感じた、新たな米粉スイーツ開発

米粉のさらなる可能性を感じた、新たな米粉スイーツ開発

米粉を使ったバターたっぷりのクロワッサン生地に、和食材であるあんこをたっぷり巻いて焼き上げた「米粉あんロール」。「米粉クッキー缶」は、地元の食材をふだんに使い、それぞれ違う食感が楽しめる5種類のクッキー。2024年1月、2つの新商品が菓子工房エクラタンの店頭に並びました。「地元の農家さんに貢献できるスイーツを」「新しい野々市市の名物を」と挑戦する中で、米粉の良さや可能性も見えてきたという、シェフの髙村さん親子にお話をお聞きしました。

地元を愛し、地元に愛される洋菓子工房の新しい挑戦

石川県野々市市にある菓子工房エクラタンは、長らく地元に愛されているお店です。シェフは代表取締役社長でもある髙村尚樹さん。東京のレストランで勤務した後、地元金沢のホテルでもシェフを務め、2007年に独立。エクラタンを開業しました。

「石川県、そして野々市市にはおいしい食材がたくさんあります。国産はもちろん地産地消にこだわり、おいしい洋菓子を届けたいと思っています」(尚樹さん)

そんな父親のお菓子づくりを見て育ったのが、髙村健太郎さん。高校卒業後に手伝いを始め、東京や京都の有名店・ホテルで修行した後、パリでもスイーツづくりを学び、2017年からエクラタンで本格的に腕をふるっています。現在は取締役専務であり統括シェフとして、父親を支えています。

地元を愛し、地元に愛される洋菓子工房の新しい挑戦

そんなエクラタンと米粉の関係は、約10年前から。野々市市の商工会議所から「新たな名物になるお菓子をつくってほしい」というオファーに尚樹さんが応えたのが始まりです。「野々市は良いお米が穫れる。その米粉を使おう」とひらめいたそうです。尚樹さんは米粉の特性を調べ、理解し、イタリアのお菓子「ビスコッティ」を米粉でつくったそうです。「米粉はグルテンがなく、粘り気がない。乾燥させたり焼いたりするクッキーのようなお菓子が向いている」と考えたのだと言います。そのお菓子が好評を博したこともあり、米粉の可能性に興味を持った尚樹さん。今回の米粉商品開発等支援対策事業を知り、健太郎さんと新たな米粉スイーツに挑戦しようと応募を決めました。

「米粉のお菓子をいろいろつくりたいと思っていましたが、忙しい日々の中、なかなか挑戦できず。今回の事業が良いきっかけになりました」(尚樹さん)

それぞれが得意分野を活かした親子シェフの競演

それぞれが得意分野を活かした親子シェフの競演

「自分がつくったのは『米粉あんロール』。米粉を使ったクロワッサン生地に粒あんをたっぷり巻いて焼き上げています。外側はサクサク、中はもっちりで、やさしいあんの甘みが特長です」と話す健太郎さん。1月中旬に発売すると、これまでエクラタンにはなかった「和スイーツ」なおいしさに、好評を博しているそう。ただ、完成まではかなりの苦労があったと言います。

「小麦粉と違って発酵が思うようにいかず、失敗の連続。高さが出ず、生地もあまり伸びません。そこで米粉はバターとの相性が良いので、バターの旨味が味の決め手にもなる、クロワッサンはどうかと思いつきました。生地を丸めるクロワッサンなら、高さは気になりません。サクサクの歯ごたえが特長なので、伸びない生地でもOKなんです」
まずは米粉100%の生地で挑戦。カタチはクロワッサンですが、味や食感は小麦粉のものとは別物。理由はグルテンがないこと。そこで少しずつ小麦粉の配合を増やし、理想に近づけていきました。

試行錯誤の中では、米粉の特長にも気づいたそうです。それは小麦粉では出せない生地の歯切れの良さに加え、もっちり感。洋菓子にはあまりない食感です。ふんわりとした米の香りにも魅力を感じました。「和菓子で使われる食材、あんこが合うのでは、と気づいたのです」と健太郎さん。そのアイデアは大正解。こうして「米粉あんロール」が誕生したのです。

健太郎さんの葛藤を見ながら、尚樹さんは別の方向性でアイデアを練っていました。ビスコッティづくりの時に知った米粉の特性を活かし「焼菓子、クッキーをつくろう」と考えていたそうです。「せっかくならいろんな味に挑戦しよう。食感も工夫して、米粉の可能性を探ってみよう」と考え、石川県産の米粉を使ったクッキー缶を実現。味もカタチも食感も違う、5種類のクッキーが詰まっています。

「米粉が活きる食材で頭に浮かんだのはナッツやアーモンド、そして和食材である抹茶でした」と尚樹さん。できあがったのは、まずフランス定番焼菓子の「フロランタン」。香ばしいアーモンドと米粉の食感のコントラストが面白いクッキーです。同じく伝統クッキー「ガレット ブルトンヌ」には能登塩を利かせ、ガリガリっとした食感に焼き上げています。ココアとシナモンの香りに、歯ごたえのある食感がアクセントになる「ココアクッキー」。そして京都から取り寄せた抹茶の苦味が活きているフクロウ型クッキー。口に入れると米粉クッキーの特長であるほろほろとほどける感覚が最も楽しめるクッキーには、その様子をあらわして「ほろ・り」と名付けられています。「り」はフランス語の「riz(=米)」にも掛けています。

それぞれが得意分野を活かした親子シェフの競演

「味や食感を食べ比べたり、大人数でわいわい話しながら食べたり、そういう楽しみ方ができる面白いクッキー缶になりました」と尚樹さん。「米粉を使った珍しいクッキーということで、中のクッキーがいちばんの主役となるよう、パッケージはシンプルにこだわりました」と健太郎さん。米粉を使った2つの新商品は、エクラタンの新しいカテゴリとしてこれから長く愛されるに違いありません。

チャレンジの中で見えてきた新たな米粉の魅力と可能性とは?

チャレンジの中で見えてきた新たな米粉の魅力と可能性とは?

尚樹さんは「苦労もしたが、米粉は厄介な食材じゃないと感じている」と新商品の開発を振り返ります。クッキーや焼き菓子の材料としては、コツをつかめばとても扱いやすいと言います。 健太郎さんもその意見にうなづき「米粉の食感は小麦粉にはなかなか出せません。自分にとってはとてもポジティブな特長に感じられます。食べるほどに楽しくなる。それが米粉の良さ。米粉のスイーツがもっと普及すれば、あの食感が美味しさの代名詞になるんじゃないかな」と話します。

「食べてもらえれば、おいしさは伝わるはず。これがエクラタンの定番のひとつになり、帰省した人たちがお土産として買って、またいろんな土地で紹介してくれるとうれしい。そうすれば『野々市にはおいしいお米があって、その米粉を使ったおいしいクッキーがある』とわかってもらえる」と尚樹さん。今後は野々市はじめ加賀野菜など石川県の名産食材を使って米粉のスイーツを増やしていきたいと期待を話します。すでに野々市市のゆるキャラ『のっティ』のカタチをした抹茶クッキーをつくるプランもあるそうです。

健太郎さんも「米粉を使った生地の面白さを知ることができました。いま考えているのは米粉を使ったクレープ。もっちりした食感がマッチするはず。食材も洋はもちろん和のものにも合う。そしてスイーツだけでなく、食事としても楽しめるクレープができるはず」と抱負を語ってくれました。

米粉と出会うことで大きな可能性を感じたというエクラタン。これからどんな野々市名物が誕生するのか、楽しみです。