その日の朝に焼き上げる惣菜パンは、生地に米粉20~30%使用。20種以上のレパートリーの中から、常時6~8種類が店頭に並び、竹輪や蒲鉾の規格外品や共通具材を活用した商品も。米の風味と具材のおいしさが食事にぴったり。米粉100%のシフォンケーキはふんわりもっちり。地元の小売店や飲食店からも注文が入ります。
惣菜パン 167~260円(税別)/1個
シフォンケーキ 1,670円(税別)/1ホール(直径17cm)、223円(税別)/1ピース(1/8カット)
・安田蒲鉾 本店
福井県福井市高柳1-2512
Tel.0776-53-2251
・安田蒲鉾 中央市場店
福井県福井市大和田1ー1-101
Tel.0776-53-2250
・福井市内のスーパー、カフェ
福井市の老舗蒲鉾店で毎朝焼き上げる惣菜パンは、種類に応じて生地の20~30%に米粉を使用。人気の米粉100%シフォンケーキは、地元の小売店や飲食店から続々と注文が入っています。
安田蒲鉾株式会社(以下、安田蒲鉾)は、江戸時代後期の1870年に蒲鉾発祥の地とされる福井県の敦賀で創業しました。現在は福井市に店舗を移し、できたての蒲鉾を出荷・販売しています。その店舗の一角に、2023年の夏ごろから焼きたての総菜パンが並ぶように。店内を見渡すと、元は蒲鉾実演コーナーだった場所にパンをつくる髙橋美智子さん(同社製造部)の姿がありました。
同社で20年以上蒲鉾の包装に携わってきた髙橋さんは、パンづくりが趣味。社内で魚肉練り製品の饅頭の企画が進められた際、「生地をつくりたかったと社長に話したら、やってみたらと言われたのがパン製造のきっかけです」と髙橋さん。カジュアルな会話から始まった新商品の開発ですが、社長からはしっかりと「新規性のある米粉でつくってほしい」と注文がありました。
「自分でつくっていたのは小麦粉のパン。米粉のパンを商品としてつくる自信はありませんでした。米粉の湯だねはうまくいかなかったのでスパっとやめ、粉と水を混ぜるシンプルなつくり方で米粉を配合しました」と髙橋さん。その結果、添加物や乳化剤の使用を控えたパン生地になりました。
惣菜パンの具材は本業を活かして一工夫。「なるべく会社にある材料でスタートしようと、欠けてしまった竹輪、蒲鉾の切れ端、コーンや枝豆など野菜天の材料を応用してレシピを考えました」と髙橋さん。マヨコーンちくわ、マヨごぼ天など、魚肉練り製品と米粉入りパンは相性が良く、老舗蒲鉾店らしい商品がそろいました。
朝の10時までに、焼きたての惣菜パンを福井市中央市場の同社店舗へ出荷するのが髙橋さんの日課。市場の客足が遠のく前にパンを焼き上げるには、本来ならば早朝に出社しなければ間に合いません。
「私の出社時間は9時、そこは絶対に譲れません。前日に生地を仕込んで帰り、朝出社と同時に焼けるように機械を入れて半自動化してもらいました」と髙橋さんは話します。それが、今回の米粉商品開発等支援対策事業で導入した業務用スチームコンベクションオーブンとドウコンディショナーです。
「子どもの予定で早退しなければいけないときも、午前中に仕込んで置いておけば必ず翌日の朝には焼ける状態に持っていけるので、もはや欠かすことのできない存在です」と髙橋さん。実は、同社の新事業であるパンのレシピ開発から製造までをすべて一人でこなしています。
開発段階で自分の好みのどっしりとしたパンのできに満足して、社員に試食してもらうと、その9割から「硬い」や「小麦粉のパンでいいのでは」との声が。「もっとどうにかならないのかと最後まで言っていたのが社長です。安田蒲鉾の商品であるからには、万人に好まれるパンを目指してほしいという思いがあるのでしょう」と髙橋さん。多くの人が望む柔らかくボリュームのあるパン生地へと改良を重ね、今もなお試行錯誤中です。
もうひとつの開発商品、米粉100%のシフォンケーキはふんわりもっちり。誰もが好きな味わいです。販路も自身で開拓しました。最初に髙橋さんの行きつけのレストランに置いてもらうと、たまたま来店した本業の得意先であるスーパーの経営者の目にとまり、「安田蒲鉾がやっているなら店に置かせてほしい」とオファーが。「米粉のパンは焼きたてでの出荷が難しいため、注文製造でシフォンケーキを置いてもらっています」と髙橋さん。米粉入りパンは時間が経つと硬くなる性質があり、再加熱でもとの食感になりますが、万人にベストな条件で食べてもらうための判断です。最近では、米粉100%のスイーツを探していたコーヒー焙煎店からの注文で、同店のコーヒー豆を練り込んだコラボ商品を製造するようになりました。
知人が営むカフェでは、イベント用に特注したハンバーガーのバンズに「安田蒲鉾のパン」と銘打って販売するほど、福井での同社の知名度は高くブランド力もあります。「私個人ではなく会社としてやっているメリットは大きいですが、安田蒲鉾の看板を背負っているプレッシャーはもちろんあります」と髙橋さんは話します。
本店では、蒲鉾のショーケースの隣に並ぶ惣菜パンにお客様も興味深げ。スタッフが「米粉を使っているんですよ」と説明すると感心した様子で二度見します。髙橋さんは、「なんでわざわざ米粉を入れるのかという声もあります。米粉を入れると小麦だけでは出せないもちもち感やサックリとした歯切れの良さなど、米粉ならではの食感が楽しめることを知ってもらえるといいですね」と話します。
「米粉の品種や銘柄によってパンの仕上がりが変わってくるのが面白く、いろいろ試した結果、北九州の米粉を使っています。福井も米どころなので、後々は福井の米粉で地産地消したいと思いながらいろいろ調べているところです」と髙橋さん。もはや趣味ではなく会社の事業のひとつ。楽しそうにパンをつくり、晴れやかに話す表情が印象的でした。