老舗お弁当ファクトリーが、米粉で新たなチャレンジに挑む

創業50年を迎える京都府宇治市の角井食品株式会社(以下、角井食品)は、お弁当と惣菜を卸している、いわば「縁の下の力持ち」。駅の売店、全国のコンビニエンスストアや大手スーパー、大学生協などに納めており、誰もが知らない間にお弁当やお惣菜を食べているはずです。その角井食品が、これまでにないチャレンジを米粉で敢行しました。代表取締役の角井美穗さんと、取締役の谷村昌洋さんに、その経緯や挑戦を通して見えてきた可能性についてお聞きします。

老舗お弁当ファクトリーが、米粉で新たなチャレンジに挑む

もっと安全で、もっとおいしい食品を、米粉から

角井食品が米粉を使った商品開発への挑戦を決めたのは、お二人の体調の変化にあったといいます。谷村さんは、50代になってアレルギー検査をしたところ、小麦粉アレルギーであることがわかりました。角井社長は体調を崩された時期があり、食べられる食品の幅が狭くなったそうです。

「幸いにも私のアレルギーは重症ではなかったんです。でも、小麦粉製品を米粉で代替すると、体が楽になる。前職ではパン製造もしていたのに、意識せず体に負担をかけていたのかと驚きでした。私のような人は多いのかもしれませんね」と谷村さん。
角井社長も「食べられない食品ができて、食事を制限されている方の気持ちが痛いほどわかりました。そういう人たちにもおいしい食事を楽しんでほしい。その一助になれば、と米粉商品の開発を始めたのです」と話します。

そうして生まれたのが「米粉の鶏唐揚げ弁当」と「米粉のキャロットケーキ」です。
コンビニエンスストアや駅の売店などにサンドイッチやお弁当を納めている角井食品。まず目をつけたのは、インバウンド向けのお弁当でした。
「角井食品のある京都は、インバウンドの観光客がとてもたくさんいらっしゃっています。海外の方には、小麦粉アレルギーやグルテンフリーの食事を嗜好されている方、またヴィーガンの方もいらっしゃいます。でも、お弁当などはまだまだその需要に応えられていないのが実情です」と角井社長。

もっと安全で、もっとおいしい食品を、米粉から

「そこで唐揚げ粉を米粉に替えたお弁当は、来日客が多く訪れる駅の売店などで販売しました。表には目立つように『Gluten Free』の文字を入れ、詳細を説明するサイトへジャンプできるQRコードも入れました。でも販売はかんばしくなかったですね」と谷村さんは苦笑いで話します。その理由は、まずお弁当にグルテンフリーの選択肢があることを海外の観光客が知らないこと。「米粉の知名度、売り方に大きな課題があるなと感じました」と谷村さんは話します。

今後「米粉の唐揚げ弁当」の販売方法を考えつつ、リニューアル等を検討しながら改良していくそうです。開発された米粉の唐揚げは自社ECサイトで販売を行っています。
「味には自信があります。グルテンフリーにするために小麦粉の衣も醤油も使えず味付けに苦労しましたが、塩と鶏の白湯スープに漬け込むことでやさしい旨味が感じられる唐揚げになっています。衣に米粉を使うと、軽い感じに揚がり、たくさん食べても胸焼けしづらい。ヘルシーをウリにして女性のお弁当需要に応えるなどはありだと感じています」と谷村さん。

何度も失敗を乗り越え、実現した初めてのスイーツ

「米粉のキャロットケーキは、お弁当とはまた違った難しい挑戦になりました」と角井社長は話します。 これまでの歴史の中で、スイーツをつくったことが無かったという角井食品。ですが、米粉商品開発等支援対策事業に採択されたら、必ず開発に着手しようと角井社長は考えていたと話します。

「野菜ソムリエ、料理家、研究者などの専門家と農家さんを繋いで、カラダに良い野菜の食品を提供する新しいブランド『miosai』を始めました。そこで2年ほど前からつくっているのが野菜ジュース。そのひとつ、人参ジュースは製造過程で人参パルプ(かす)がたくさん出ます。それをケーキに活用できないかと考えていたのです」と角井社長。
質の良い野菜を使っていることもあり、甘みをふくんでいる人参パルプ。活用できればフードロスの削減に貢献できると、まずはおいしいキャロットケーキを取り寄せ、研究を始めたそうです。

「手づくりなら味を近づけることは簡単でした。その時に、私がヴィーガン対応のスイーツにしようと、大きく舵を切ったのです。そこから難航しました。小麦粉とバターは、個人的には『幸せな味』。それを使わないケーキをスイーツと呼んでいいのか……と悩みながら試行錯誤し、コンサルの方にも相談しながら試作を続けました」(角井社長)

何度も失敗を乗り越え、実現した初めてのスイーツ
挑戦を通じてつかんだ米粉の可能性。夢はより大きく

そうしてできたのが、豆乳ヨーグルトを使った米粉のキャロットケーキでした。ただ完成当初は、今とまったく違う容器だったそうです。
「企業としては売らないといけないし、売れないといけない。そのためには安定して大量に製造でき、賞味期限も一定期間が必要になります。そこでカップケーキから、現在のスティック状にカタチを変更。これにより製造工程が省略され、冷凍することで賞味期限も延びました」と話す角井社長、味には絶大な自信を持っていると話します。
米粉の特徴が出たしっとりした生地は、人参の自然な甘みが感じられます。豆乳ヨーグルトとココナッツオイルを合わせたクリームはさわやかな味。そのハーモニーが絶妙だといいます。

「米粉商品開発等支援対策事業を利用し新しいコンベクションオーブンを購入しました。本事業に採択されなければ、これほど大きな挑戦はできなかった。角井食品の新しいチャレンジの機会をもらえた。そして、これからのチャレンジの原動力をもらえたと感じています」と角井社長は話します。

挑戦を通じてつかんだ米粉の可能性。夢はより大きく

「フライヤーも本事業を使って追加し、米粉食品専用として使っています。ラインを分けることで、グルテンフリー食品の製造体制も整いました」と谷村さん。今回のチャレンジで米粉の可能性をしっかりと感じ、今後もグルテンフリー食品の開発だけでなく、既存のお弁当や惣菜に米粉を活用していくことを考えていると話します。

「京都産の米粉を供給してくれる製粉会社さんとのパイプもできました。米粉のお惣菜やお弁当、スイーツを通して地産地消を押し進め、地元にも貢献したいという気持ちがあります」と角井社長も話します。

海外のグルテンフリー事情を見ると、とうもろこしや大豆を使ったものが多い。そこに米粉を使ったグルテンフリー食品、それも人気のある日本の食を紹介できれば、大きな可能性があるのではないかと、大きな夢も描いています。「そのためにも、もっともっと米粉と米粉でつくった食品の知名度とおいしさを広めていきたい」とお二人は笑顔で話してくれました。

挑戦を通じてつかんだ米粉の可能性。夢はより大きく