「おいしいお米でつくった米粉の加工食品を食べてもらいたい」という思いから、奈良県で生産される品種「ひのひかり」100%の米粉でつくられた米粉の焼菓子や米粉パン。手がけるのは100年以上吉野郡で米農家とつきあい、米問屋を営んできた南都食糧。いわば米のプロ中のプロです。その南都食糧が製粉した米粉を使って、米粉マイスター・米粉インストラクターの資格を持つ小川朋子さんがレシピを考案。現在は主に業務用の注文に応え、冷凍食品として出荷しています。また、OEMも請け負っています。2024年夏には自社ECサイトもスタートする予定です。
販売価格等は調整中
・OEM依頼:南都食糧株式会社
Tel.0747-52-1516
・ECサイトで販売予定(2024年夏頃)
奈良県吉野郡にある南都食糧株式会社(以下、南都食糧)は、創業1918年(大正7年)と、100年以上の歴史を誇る米問屋です。そんな老舗が新たに開設したのが「古都米粉研究所(coto-comeco.lab)」。米粉パンや米粉スイーツの製造を請け負う、南都食糧の新しいサービスです。所長は米粉マイスター・米粉インストラクターの資格を持ち、南都食糧で取締役を務める小川朋子さん。すでにたくさんある依頼に応えながらも、新しいレシピの開発に余念がありません。老舗の米問屋が米粉にどのような未来を描いているのか、小川朋子さんと、南都食糧の代表取締役 小川洋一郎さんのご夫妻にお聞きしました。
丸パンやベーグル、カヌレにシフォンケーキやドーナツをはじめとしたパンやスイーツ。すべて米粉を使って古都米粉研究所が製造した食品です。そのバリエーションは実に多彩。
「古都米粉研究所は自社で集荷・精米・製粉したお米で美味しいパンやスイーツをつくりたい、という思いから設立しました。お客様のご要望に合わせてレシピを工夫して製造しています」
そう話すのは、古都米粉研究所所長の小川朋子さん。古都米粉研究所は2024年にスタートしたばかり。米粉商品開発等支援対策事業を活用して新たな商品開発を行うとともに、スチームコンベクションオーブン、冷凍冷蔵庫など製造に必要な器具を整備したそうです。
「米粉を活用した食品を本格的につくれる厨房がほしいと以前から考えていました。今回の事業があって、やっと踏み出せました」
朋子さんは3年ほど前から首都圏などの教室に通い、師匠となる方に師事して米粉について学び、米粉マイスター・米粉インストラクターの資格を取得したそうです。
「その中で、米粉って可能性にあふれているなと感じるようになりました。世にある小麦粉でできた焼菓子やパンは、すべて米粉で代替してつくることができると考えています。そうすれば小麦粉アレルギーの方や食事制限している方にも食べてもらえる。なにより米粉でつくったおいしい食事で喜んでもらえる。それはレシピを考え、食品をつくる私にとってもうれしいことです」(朋子さん)
「老舗である米問屋の南都食糧が『なぜ古都米粉研究所で、パンやスイーツのOEMを?』と思われるでしょう。実は南都食糧ではかなり前から、じわじわと米粉の取り組みを進めていたんです」と話す小川洋一郎さんは、現在では既に製粉の機械をそろえ、米粉の販売も行っていると言います。
「米粉に興味を持って調べ始めたのは10年ほど前。パンやパスタなどの食事が一般化し、食用米の消費量は年々減少しています。その状況に、お米を卸しているだけでは事業が継続できないかもしれないという危機感を感じていました。そしてそれ以上に、米農家さんの将来が不安になっていました。米の消費を増やし、売上を伸ばす方法はないか。そして米農家さんからお米を購入できる選択肢はないか。そんなことをずっと考えていました」という洋一郎さん。目をつけたのが米粉だったと言います。
米問屋と米農家は運命共同体。米粉のビジネスを軌道に乗せれば、米農家さんの将来に貢献できると、製粉機器を製造する会社に相談にいったものの、その機器の高さに一度は断念してしまったそうです。
「転機が訪れたのはコロナ禍でした。コロナ禍でさらに米の消費量が落ち込んだのです。これは本当になにか新しいことに挑戦しないと、と考えているときに、事業再構築補助金を知りました。それを利用して米粉の製粉機を購入することができたのです」
それでつくった米粉をこれまでの取引先などに納入しつつ、新たな販路も開拓。少しずつビジネスを広げていったそうです。そうして米粉の製粉も手がける中で、米粉の特性がわかってきました。そこに大きな気づきがあったと洋一郎さん。
「やっぱりおいしい米粉は、おいしいお米からできるのです。南都食糧のある奈良県には、『ひのひかり』をつくっている米農家さんがたくさんいます。『ひのひかり』はコシヒカリから生まれた品種。とてもおいしいお米です。これで米粉をつくれば、当然おいしい。その米粉で食品をつくれば、ほかにはないおいしい米粉食品になるのでは、と気づいたのです」(洋一郎さん)
米粉のパンには、ミズホチカラが使われることが多くあります。ミズホチカラの米粉はアミロース値が高く、膨らみやすいのが特徴。「ひのひかり」で同じような特性を持った米粉がつくれれば、ミズホチカラのように米粉食品に使えるのではないかと洋一郎さんは研究を始めたそうです。
「ひのひかり」でつくった米粉を持って営業活動をする社員さんを応援するために、朋子さんは米粉を使ったパンなどを試食で提供するようになりました。そして「もっとおいしく、上手につくれないか」と朋子さんは米粉のお菓子・パンづくりの修行に出たのです。資格を取得し、一般的な米粉食品のつくりかたを覚えて帰った朋子さんは、「ひのひかり」の米粉を使って試作を繰り返したそうです。
「気温や湿度、新米古米などによって米粉の状態は変わります。最初は厨房がなかったので、近隣の施設に米粉など材料をすべて持ち込んで試行錯誤していました。その甲斐あって、今ではその日の状況に合わせて、安定して同じ品質のものがつくれるようになりました(笑)。その米粉食品がとても好評で、売ってほしいという声も多くいただくようになりました。そこで『本格的な厨房が必要だ』と今回の事業を活用して、温度や湿度が保てる古都米粉研究所をつくったのです」(朋子さん)
試食会でも好評を博す朋子さんのつくるお菓子やパン。「これは商品として、ビジネスとしても成り立つのでは」と考え、古都米粉研究所を発足したそうです。今後はイベントなどでの少量の注文にも柔軟に応えていくつもりとのこと。
「主食用のお米を、誇りを持って栽培している米農家さんにとっては、現在の状況は悔しいものがあると思います。ですが米粉でおいしいお菓子やパン、麺などがつくれて、それを食べて喜んでくれる人がいるとわかれば、力づけられるのではと期待しています。農家さんにも試食してもらいたいです」と洋一郎さん。今後は麺やピザ、餃子の皮なども米粉でつくりたいと、古都米粉研究所の今後に大きな期待を寄せています。
米卸としての問屋業、米粉製造販売業、そして古都米粉研究所での米粉食品のOEMや販売と、南都食糧の事業はお米を核として広がりを見せています。2024年の夏頃までには事業を統合した新しいWEBサイトを制作し、古都米粉研究所での通販もスタートする予定。奈良県の米農家さんの未来を背負って、南都食糧は大きな一歩をいま歩み始めたのです。