生まれ育った地元に、米の魅力で明るい未来を

生まれ育った地元に、米の魅力で明るい未来を

福岡県三潴郡大木町は、筑後平野の良質な土壌と筑後川からの水で「元気つくし」や「夢つくし」「ひのひかり」といったおいしいお米が穫れる土地。一方で福岡県内でも急速に過疎化が進んでいる土地でもあります。それに比例し、農業従事者も年々減少しているといいます。
その流れを止め、地元の魅力を発信して大木町で頑張る若者を増やそうと、米粉スイーツや米粉、製粉サービスを始めたのが株式会社田中製粉(以下、田中製粉)。大木町で100年以上営まれている老舗のお米屋さんです。4代目となる弟さんをサポートしながら、スイーツ開発を手がける横山絵梨さんにお話しを伺います。

改めて気づいた地元の良さ、米と米粉の可能性

2023年に100周年を迎えた田中米穀。地域の状況をなんとか変えたいと、さまざまな活動をしているのが、横山絵梨さんと将来4代目となる弟さんです。横山さんは、母親になって子どもを育てながら実家の家業を手伝う中で、いつしか米の魅力の虜になっていたと言います。

「娘たちは本当にお米が大好きなんです。おかずなしでも、ご飯だけいくらでも食べられるくらい。家では実家である田中米穀で扱っている地元大木町でつくったお米を食べています。私にとっては、生まれた時から食べているお米です。それが本当に良いお米だったんだな、と実家を離れてやっと気づきました」
おいしいお米を食べれば、やっぱりお米が好きになるということに気づいたと横山さん。そこから「おいしいお米」への興味が芽生え、いつしか米粉にもその興味は広がっていったそうです。

改めて気づいた地元の良さ、米と米粉の可能性

「娘のお友達に小麦粉アレルギーを持っている子がいるんです。その子はおやつの時間、自宅でつくった米粉スイーツを持ってくることがあるそうです。その話を聞いて『米粉でできているお菓子ならみんなで食べられるんじゃないか。そうすればみんなでおいしさや楽しさが共有できる』と考え、米粉にとても希望を感じたんです。そこから米粉を意識するようになりましたね」

さらに、家業を手伝っていると、お客様から米粉の扱いがあるかと問い合わせがあったり、米農家さんから米粉の使い方について相談があったりもするそうです。
「私だけでなく、世間の目も米粉に向いているんだなと感じました。もし米粉がうまく使えれば、お米の消費量はアップしますし、米農家さんにとっても販売の選択肢が増える。それを田中米穀から発信して、お米と地元の米農家さんを応援したい。そのために米粉についてもしっかり知りたいと考えるようになりました」

決して揺るがない「体に良いものを届ける」というコンセプト

米粉で米の消費減を止める、地元農家を救う

2021年に田中米穀は社屋を建て替えました。それに合わせて、事業の幅を広げようと、横山さんはお米マイスターや米粉マイスターなどの資格取得を目指しました。
「米粉について学んでいるときに、先生から聞いた話がとても印象に残っています。水に溶いた小麦粉と米粉、服に付着して乾燥した後で、落としにくいのは小麦粉の方なんです。米粉は水で流せば落とすことができる。これが私たちの体の中、胃や腸で同じように起きているんだ、という話でした」

米粉は体への負担が少ないと知った横山さんは、家での料理に使っていた小麦粉を米粉に置き換えていったそうです。そうすると、食べた後に胃もたれなどが減り、それでいて腹持ちがいい料理ができると気づいたそうです。
「米粉は体に良いものなんだなと自分の身をもって知りました。腹持ちが良いので、間食も減るようになりましたね。産後に体重が落ちなくて困っていたのですが、ダイエットにも使えるんじゃないかと感じました(笑)」と横山さんは米粉の可能性を次々と実感するようになっていったそうです。そうして、横山さんが考えたのが「米粉でスイーツをつくって、たくさんの人に米粉の良さを感じてもらおう。そしてお米の選択肢の広さ、魅力を伝えよう」ということでした。

「その時に米粉商品開発等支援対策事業を知りました。本事業を利用して米粉の製粉機を購入しました。またスイーツの製造道具をそろえて、試作用の材料調達にも活用。そうして完成したのが、米粉のシフォンケーキや米粉のクッキー、焼菓子です。田中米穀の店頭で販売するために、告知のチラシも作成しています。そちらにも本事業を使っています」
こうして田中米穀の新しい商品、米粉のスイーツが誕生したのです。

米粉を通して伝えたい、米の美味しさ、地元の良さ

地元の過疎化や農業従事者の減少を止めたい、そのためにお米の魅力を伝えたい。その思いから始まった田中米穀の新しい活動。だからこそ、横山さんは地元の食材にこだわって、スイーツをつくっています。
「シフォンケーキには近隣で生産されているイチゴ、あまおうを使っています。クッキーに使う抹茶も、地場のもの。おつき合いのある米農家さんに生産者さんを紹介してもらい、規格外品などを分けてもらっています。形やサイズだけが理由で、おいしい地元産の食材が使われていないという状況も変えていきたいと思っています」
そうして地元の魅力を発信することで、地元に残りたいという若者を増やせればと考えていると横山さん。弟さんは、それ以外にもドローンでの農薬散布事業など、農業を支援するサービスもスタートしています。

米粉を通して伝えたい、米の美味しさ、地元の良さ
米粉を通して伝えたい、米の美味しさ、地元の良さ

「田中米穀の社屋前の道は通学路になっています。子どもたちには米粉でつくったおいしいスイーツを食べてもらい、地元の良さに気づいてもらいたいな、と思っています。建て替えた社屋は、人を呼んでマルシェができるようにも設計されています。直近では、ここで生産者さんとマルシェを開くのが目標。そこで米粉スイーツやおいしいお米を食べた人の笑顔を、農家さんに見てもらえたら嬉しいですね。やっぱり自分がつくったもので人が喜んでくれるのを見るのは元気をもらえますから」と横山さん。
それ以外にも精力的に農家さん達にも情報発信して、米と米粉の可能性を感じてもらいたいと話します。

本事業で購入した製粉機を使って、自社で製粉した米粉を販売するだけでなく、1kgの少量から米粉を製粉するサービスもスタートしました。田中米穀を通じて米粉の魅力を知った農家さんが、新たに6次化を目指す、その挑戦の後押しもできればと横山さんは考えています。
福岡県の大木町に明るい未来を拓く活動が、田中米穀から始まっています。