前年度開発品のノウハウを生かし、家庭向け中華まんの皮にも米粉を配合

前年度開発品のノウハウを生かし、家庭向け中華まんの皮にも米粉を配合

電子レンジで温めるだけで、すぐに食べることができる肉まんやあんまんは、小腹がすいたときや子どものおやつとして家庭や職場で広く親しまれています。2023~24年シーズンにコンビニエンスストア向け商品として、皮の生地に米粉を配合した「中華まん」を開発した株式会社中村屋(以下、中村屋)では、今回、スーパーマーケットや量販店で販売する商品を開発しました。コンビニエンスストア向け商品同様、皮に米粉を加えることで、新しい食感や味わいを生み出しています。コンビニエンスストア向け商品開発時のノウハウを生かし、さらに改良を加えて誕生した新商品について、中華まんスチーム開発部の伊藤智徳さんにお話を伺いました。

米粉の機能性を生かし、しっとり口どけのよい皮に

1901年(明治34年)に創業した中村屋。同社を代表する商品の一つに「中華まん」があります。現在販売されている「中華まん」は、1927年(昭和2年)に販売を開始した「天下一品支那饅頭」から続く商品で、皮や具は毎年改良を重ねておいしさを追求しています。神奈川県海老名市にある神奈川工場内の研究所で「中華まん」の開発を担当している伊藤さんは、今シーズンの商品開発について、次のように話します。
「今シーズンは、スーパーマーケットや量販店で販売する『中華まん』の皮の部分に米粉を使用しました。米粉の配合率は約0.3%です。数字にするとわずかですが、従来品よりもふっくらしっとりとした食感と、ほどよい口どけを楽しめるように仕上げました」

米粉の機能性を生かし、しっとり口どけのよい皮に

「中華まん」の皮に米粉を配合する試みは、2023~24年シーズンに大手コンビニエンスストアチェーンで販売した「中華まん」に続くものです。生地の仕込みの際に米粉を加えるといった製造の基本的な部分は、前回の開発で得たノウハウが生かされています。

アルファ化した米粉で“加温条件”の違いによる課題を解決

アルファ化した米粉で“加温条件”の違いによる課題を解決

「コンビニエンスストア向けの『中華まん』は、各店舗のスチーマーで温めた状態で販売されます。一方、スーパーマーケットや量販店で常温販売される家庭向け商品は、購入後に加熱する必要があります。かつては家庭でも蒸して食べることが一般的でしたが、現在は電子レンジで加熱するケースが主流です。今回の開発のテーマは、この異なる“加温条件”でも、蒸したてに近い食感や味わいを同じように楽しめる商品をつくることでした」と伊藤さんは話します。

これまで電子レンジで加熱した「中華まん」は、皮のしっとり感が損なわれる傾向にあることが課題でした。そこで伊藤さんたち開発チームは、前シーズンのコンビニエンスストア向け商品開発の際、皮に米粉を配合してしっとりとした食感にできたことに着目しました。米粉がもつ保水性や粘りが、今回の商品開発にも生かせるのではと考えたのです。

しかし、コンビニエンスストア向け商品開発での知見を取り入れるという方向性は打ち出せたものの、試作は必ずしも順調には進みませんでした。米粉の配合率を調整したり、うるち米の代わりにもち米を使ってみたりと、いろいろ試した結果、アルファ化米からつくった米粉を使用することで、良好な結果を得ることできたそうです。

米は水に浸して加熱(炊飯)すると、結合していたデンプンの間に水分が入り込み、ほぐれた状態(=アルファ化(糊化))になります。このアルファ化によりご飯はやわらかく、ほどよい粘りが生まれ、消化吸収もよくなります。これが炊きたてのご飯がおいしいとされる理由の一つです。
ご飯が冷めるとデンプンが再び結合してベータ化することで固くなり、風味も落ちてしまいます。しかし、アルファ化した米を急速に乾燥させることで、デンプンはほぐれたままの状態を保つことができます。

伊藤さんは「家庭向け『中華まん』は、個包装のまま電子レンジで加熱し、そのあと1分ほど蒸らしてから食べます。この蒸らしの段階で皮に適度な水分が与えられ、しっとりとした食感になります。アルファ化米の特性が、コンビニエンスストア向け商品とは異なる“加温条件”でも、しっとりとした食感をつくり出してくれました」と話してくれました。

「中華まん」のおいしい進化はこれからも続く

こうして誕生した家庭向け「中華まん」は、2024年8月から各地のスーパーマーケットや量販店で販売が始まりました。中村屋では「中華まん」を食べた人を対象にアンケート調査を実施したところ、「皮がおいしい」「皮がしっとりしている」といった回答が多数あり、開発の成果がしっかり伝わっていると感じたそうです。

また、WEBサイトで米粉を使用していることを発信するとともに、発売時に外袋の留め具部分に「さらにおいしくなりました」というPOPを付ける、専用ラックで商品を展開するなどで、おいしくなったことを購入者に伝えています。

アルファ化した米粉で“喫食条件”の違いによる課題を解決
「中華まん」のおいしい進化はこれからも続く

最後にこれからの「中華まん」開発について、伊藤さんに聞くと、「今回開発した『中華まん』は大手スーパーマーケットや量販店で販売しているので、たくさんの人に食べてもらいたいですね。そして私たち開発チームは、お客様の声を次の商品に反映できるように営業や販売担当と連携し、情報収集に努めたいです。米粉についても、ほかの品種を試したり、米粉の粒子を検討したりと、まだまだ改良につながる要素があるので、今後も研究や試作を重ねて、さらにおいしい『中華まん』をつくっていきたいと考えています」と話してくれました。

次のシーズンも、おいしさを追求し、磨き上げを続ける中村屋の「中華まん」に注目です。