バリエーション豊富で味わい深い、オーガニックの米粉パン

「キッチンわたりがらす」は、東京・恵比寿で17年間愛され続けるオーガニックレストラン。開店当初から無農薬の野菜や米にこだわってきたのは、「素材の良さは土壌の健康から生まれる」という深い信念があったからです。

ベーカリーの新業態で環境問題に挑む

オーナーシェフの村上秀貴さんが、オーガニックレストラン経営で一貫して取り組んできたのは、地球が汚されていくことに対するアクションです。無農薬・無添加の食材を使うことで、土壌の健康を守り、地球環境を良くしたいという純粋な思いがありました。

その理念を踏襲して、2024年12月、レストランの道を挟んだ向かいに、グルテンフリーベーカリー「ORGANIC JUNKIE(オーガニック ジャンキー)」を開業。新たな挑戦が始まりました。「新業態を立ち上げた一番の目的は、米粉の消費を増やすことです。日本の方たちに日本で育ったお米を食べてもらい、日本の田んぼを自然豊かにより美しく保つことができればと考えています」と村上さんはその思いを語ります。

ベーカリーの新業態で環境問題に挑む
ベーカリーの新業態で環境問題に挑む

これまでも「キッチンわたりがらす」で、米粉を使ったパンやスイーツをつくり提供してきた村上さん。今回の米粉商品開発等支援対策事業で、新業態の開業に向けて、もともとのレシピを改良しての米粉商品のブラッシュアップと新たな商品の開発に取り組んできました。

こうして、米粉の食パンやハードパン、ヴィーガンマフィン、バナナマフィン、スコーンなどのスイーツ、チーズクラッカーなどを取り揃えて「ORGANIC JUNKIE」をオープン。自家製の米粉パンを使ってグルテンフリーのサンドイッチも種類を充実させました。ここでは、小麦粉や小麦製品を扱わず、アレルギーやヴィーガンにも対応するなど、食の選択肢を広げています。

素材にこだわり、豊かな味わいを追求

「ORGANIC JUNKIE」でも、これまでのこだわりをそのままに、国産のオーガニック食材や放牧肉を使用し、添加物・化学調味料・冷凍品は不使用。ドレッシングやソースはすべて自家製です。無農薬の土壌で育てた野菜を生産者から直接仕入れてきたように、米粉もオーガニックの生産者から仕入れています。

今回は知人の紹介で兵庫県の無農薬栽培の生産者と出会い、酒米の山田錦を同県内の製粉会社で気流粉砕した米粉をパンやスイーツの原材料に使用しました。今後は酒米と同様に粘り気の少ない高アミロース米のササニシキなど、異なる米品種の米粉も検討していくと言います。

素材にこだわり、豊かな味わいを追求

スタンダードな食パンは、原材料の95パーセントが米粉。そのうち2割は軽さを出すためにライススターチを使用し、膨らみを補うためにひよこ豆などの穀物粉を加え、軽やかな食感に仕上げました。また、国産のマコモダケのパウダーを練り込んだ「米粉とマコモダケの食パン」は、自然な緑の色合いでほんのり甘く優しい風味が特徴です。

ハードパンのバリエーションの開発も、新業態の立ち上げに向けて特に力を入れたことのひとつ。原材料の70パーセントに米粉を使用し、フレーバーとして穀物や種実を組み合わせ、ひよこ豆粉、トウモロコシ粉、そば粉などを配合することで、さまざまな食事と合わせやすい味わいを追求しました。

スイーツも充実させています。マフィン、スコーンなどの菓子は、グルテンフリーかつオーガニックで砂糖不使用。動物性食材を一切使わず、ベジタリアンやヴィーガンのニーズにも対応しています。また、米粉のチーズクラッカーは、米粉生地にチーズを練り込んだワインにも合う一品です。

水田風景を守るため、より多くの人に届けたい

水田風景を守るため、より多くの人に届けたい

「ORGANIC JUNKIE」は、午前10時から深夜0時まで営業し、店内中央には大きなテーブルがありイートインも可能です。ドリンクメニューには、オーガニックのデカフェや和紅茶、さらにワインも充実させています。「今後、パニーニやケークサレなどの甘くないメニューも増やしていく準備をしている」とのこと。さまざまなシーンで、米粉のフードが楽しめる場所ができました。

そのロゴマークは米粒の形がモチーフ。料理はもともと得意でオーガニックレストランを始めたという村上さん。米粉のパンやスイーツもほぼ独学でつくってきました。新業態のスタートにあたって、グルテンフリーベーカリーの専門家のサポートを受けながらレシピを完成に近づけました。

また、ベーカリーの経験はなかったため、機械の選定には苦労しました。知人や機械メーカーに相談しながら最適な設備を導入。その中でも特に欠かせなかったのが急速冷凍機です。水分が抜けると硬くなりやすい米粉のパンやスイーツの品質を保つために、焼き立ての状態で保存できる設備が必要でした。

水田風景を守るため、より多くの人に届けたい

「もっと多くの人に米粉のパンやスイーツを食べてもらえるように、これからもいろいろな商品をつくっていきます。ただ、『ORGANIC JUNKIE』の1店舗だけで量を売るのは難しいので、卸や量販店で販売してもらえる商品開発に取り組んでいるところです」と村上さん。

すべては米の消費量を増やして、日本の美しい田園風景と豊かな自然環境を守っていくため。そんな強い思いが込められた米粉のパンや菓子は、噛むほどに味わい深く、食べる人の心を優しく満たしてくれることでしょう。