米粉でつくられたバーガーバンズには、木内酒造が酒づくりで得てきたノウハウが活かされています。発酵に使ったのはウイスキー酵母。発酵の過程で生まれた酸味が、米粉パンの甘さと一体になり、具材との相性を高めています。具材に使われているのは常陸牛や茨城産の野菜と、地元産の食材のみ。地産地消で地元茨城県の魅力を詰め込んだ特製ハンバーガーです。
1,600円(税込)(店内飲食)
・常陸野ブルーイング 水戸
茨城県水戸市宮町1-7-31 水戸駅ビル エクセルみなみ4階
Tel.029-306-7575
日本のクラフトビールの先駆けとも言える「常陸野ネストビール」を手がける茨城県の木内酒造株式会社。ネストビールは国内外で数々の栄誉ある賞に輝き、いち早く海外進出も果たしました。その木内酒造のオリジンが清酒「菊盛」、日本酒です。1823年の創業より200年余、茨城県とともに歩んできた木内酒造だからこそ、地元の米と食への想いは大きなもの。その想いが、米粉商品開発等支援対策事業によって1つ実を結びました。
「茨城県はもともとビール用の麦を生産していたところを稲作に転向し、陸稲の一大産地となりました。私たち木内酒造は、日本酒をつくっている酒蔵。年間に購入して消費する米の量は1億円にも上ります。私たちの事業は米農家の方たちに助けられて成り立っているわけですから、常々地元に、中でも米と米農家の方たちに貢献できることはないかと考えています」
そう話すのは、代表取締役の木内敏之さん。これまでも米からウイスキーをつくるプロジェクトを行ったり、米をゲル状に加工した新食品素材の開発を進めたりと、米をテーマにさまざまな挑戦をしてきました。そんな木内社長が2024年度にチャレンジしたのが、米のパンでした。
「木内酒造はレストランを14店舗展開しており、現在、パンは既製品を購入しています。これの一部でも米でつくったパンで提供できれば、米の消費に大きく貢献できると考えました」
企画したのは「バーガーバンズ」と「バオバンズ」。レストランで提供されるハンバーガーのためのバンズと、中華の蒸しパン「包(バオ)」のようなバンズです。ただ、その開発は米粉の特性に阻まれ、難航したといいます。
「米粉でつくると、バンズが膨らまないのです。また、米粉のパンは米粉ならではの甘さが特徴。 その甘さがハンバーガーの具材と合わなかった。そこでウイスキー酵母を足してみたところ、発酵が進み、さらにバンズに酸味が生まれて味のバランスが取れたのです。ウイスキー酵母には乳酸菌がたくさん含まれているので、発酵する間に酸味が醸成されます。これが食事に合うんですよ。バーガーバンズは納得のいくものができ、毎日のように試食を繰り返したのですが、全く飽きないので今でも食べ続けています(笑)」
木内さんがこだわったのは地産地消。そして「100%ナチュラル」でした。完成した米粉でつくったバーガーバンズを使う「OMOYA BURGER」は、米粉や酵母はもちろん、具材まですべて地元の安心・安全な食材でできています。
同時に開発していた米粉100%のバオバンズも完成はしたものの、料理としてはまだ検討の余地があるとのこと。すでにイベントなどでは提供されて好評を博しており、近日中にメニューの提供がスタートする予定だそうです。
バーガーバンズとバオバンズの開発を担当したのは茂木良作さん。初めてチャレンジする米粉でのパンづくりには様々な発見があったそうです。
「米粉でつくったバンズは、これまでの小麦粉のバンズと違い、表面がピンと張って、つるりとしている。とても見た目のいいバンズになりました。これはウイスキー酵母の発酵力の強さのおかげだと思います。表面はパリパリに焼けて歯切れも良いので、食感が楽しい。そしてなにより、米粉のパンが料理との相性が抜群にいいというのは発見でした。社内の試食会でも、美味しいととても評価が高かった。レストランでは茨城の食材を使ったハンバーガーとして提供していますが、個人的には従来の小麦のバンズより味がまとまっていると感じています。自信を持っておすすめできます」
本事業で購入したパンの製造機によって、手ごねでは実現できないじゅうぶんな発酵が可能になり、米粉パンのバリエーションも増えていると茂木さん。木内酒造では、蕎麦粉も練り込んだ米粉のフォカッチャやバケットをハムと一緒に提供しています。
「市販のバケットに比べて、米粉でつくると歯切れが良くなるため、ご年配のお客様でも食べやすいという発見もありましたね。米の風味を感じられる甘さもいい。より多くの方に地元の食材でつくった美味しい料理を楽しんでもらえるようになりました」(茂木さん)
また、本事業でさまざまな機器をそろえることができたことで、セントラルキッチンが充実したと店舗事業部の佐藤謙次郎さんは話します。
「先ほど出たように、パンだけでも毎月200トン購入していますが、一部でも内製できるようになれば、コストを抑えることができます。その分を新たな商品開発に充てることもできます。まだまだ木内酒造が地元のためにできることはたくさんあります。本事業が様々な挑戦の機会を与えてくれたと感じています」
自社が持っている酒麹やビール酵母、ウイスキー酵母と米粉などの食材を組み合わせることで、もっと幅広く多彩な味の商品が生み出せるのではないかと、木内酒造では試作を続けているそうです。将来は米粉の自社製粉も視野に入れているとのこと。
「まず次のステップは、2028年に開業を予定している道の駅で提供されるバオバンズですね。木内酒造のある那珂市に開業予定で、デザインやコンセプトなど初期から関わってつくってきました。そこでは米粉100%のバオバンズに常陸牛のハンバーグや地元ブランド豚でつくった生ハムなどをサンドした料理を提供するほか、バオバンズや米粉パンの販売なども計画しています」(佐藤さん)
「会社を挙げて、茨城県を盛り上げて地元に貢献しよう。それが私たちが考えていることです。地産地消の料理をレストランで提供することも道の駅も、地元のためにと挑戦しています」
「現在はさまざまな商品を販売できるマーケットを構築している状態」と木内さん。マーケットができあがれば、今以上に米をはじめとした地元茨城の食材や加工品を広く販売することができ、より大きく地元の発展に貢献できるからです。
「米粉のバーガーバンズとバオバンズには可能性を感じています。米粉100%のバオバンズは、グルテンフリーとして小麦粉アレルギーの方や健康志向の方、海外の方にも受け入れてもらいやすい。茨城の魅力を世界にアピールし、販路を拓くことができるかもしれない」
そのほかにも醸造後のビール酵母や、ウイスキーの発酵液、日本酒をつくる際に酒米から出る糠・米粉、木内酒造が研究を進めている発酵と醸造に関わる微生物なども「可能性を秘めた食材」として活用の途を探っていきたいと木内さん。
「木内酒造が目指すのは、商品をたくさん売る会社ではありません。地元のものをしっかりと使い、それを世界に広め、地元に還元する。そうして地元茨城県の発展に貢献する。その大きなビジョンを実現する会社を目指しています。まずは2028年の道の駅の開業で、大きく地元茨城の魅力をアピールできる準備が整います。ぜひ期待してください」