独特の“カリサク”食感で、子どもたちの笑顔を生み出していく

独特の“カリサク”食感で、子どもたちの笑顔を生み出していく

米どころ新潟県にあって、1998年に日本初の微細米粉専用製粉工場が市内に設立されたことで「微細米粉発祥の地」として知られる胎内市。同市に今回紹介する株式会社タイナイ(以下、タイナイ)はあります。同社は米粉の普及に大きな役割を担った市名を社名の由来とし、今回の米粉商品開発等支援対策事業を活用して開発した米パン粉を通じて、米粉の普及拡大に一層取り組んでいこうとしています。開発に携わった商品開発部・山谷健太さんに新商品への思いなどを聞きました。

慢性的な欠品という課題を打破するために

タイナイは青果物の仲卸業を祖業として、2010年に米粉を使用したパンおよびパン粉の製造販売をスタートさせました。代表の知人から寄せられたアレルギー対応のパン粉を生産できないか、という相談がきっかけだったといいます。当時はアレルギーフリーのパンがほとんど存在せず、米粉も浸透していなかったため、大学との共同開発をゼロから始めたそうです。最初に米粉の生パン粉からスタートし、食パンや玄米パン、ベーグル、クッキーなど米粉に携わってきた15年のなかで商品ラインアップを徐々に増やしていきました。

しかし「米パン粉は生産ライン数の関係で慢性的な欠品に悩まされてきました」と山谷さんは話します。こうしたタイナイの状況を後目に、グルテンフリーやアレルギーフリー食への世の中の関心は高まるばかり。タイナイにも数多くの生産要望が寄せられていました。そこで「主力商品である角食パンの増産ライン稼働に合わせて、今回の補助金を活用して、市場要求が高い米パン粉の増産にも取り組むことを決めました」と山谷さんは、ニーズに追いつくべくアクセルを踏み込んだと話します。

生タイプからドライタイプへの転換で向上した商品力

支援事業活用の目的は、増産だけではありません。米パン粉の新商品開発も大きな目的でした。従来品は生パン粉のため開封後にどうしてもカビが発生しやすい傾向にあり、品質保持剤などを使用して賞味期限を担保していました。そこで「乾燥ライン設備を整備することで、機械へのパン粉付着を抑制し、生産効率の向上とともに菌の発生を抑えることを狙いました。商品自体をパン粉を乾燥しない生タイプから乾燥工程を経る”ドライ”タイプへと転換することにしたのです」と山谷さんは新商品の開発コンセプトを語ります。

米パン粉として販売されているものの多くは、小麦と米粉のブレンド品や、パンを経ずに米を直接膨化させた“米パフ”タイプのパン粉だと山谷さんは話します。一方、タイナイの米パン粉は小麦を一切使用せず、米粉100%のパンをまず焼き上げてからパン粉を製造しています。この製法により小麦パン粉に比べて約32%の吸油率カットを実現。タイナイの米パン粉で調理した揚げ物は、衣が粒立って外はカリッと揚げたてのサクサクとした“カリサク食感”が長時間持続するといいます。「湿度が高い梅雨時でも、揚げたて食感を2~3時間はキープできます」と山谷さんは商品の仕上がりに自信を見せます。

生タイプからセミドライタイプへの転換で向上した商品力
独特の“カリサク食感” を実現するための試行錯誤

独特の“カリサク食感” を実現するための試行錯誤

しかし、この自信に至るまでの道のりは決して平坦ではなかったと山谷さんは振り返ります。新商品の発売は2025年9月。生タイプからドライタイプへの商品リニューアルを構想しはじめたのが2024年1月ごろなので、日の目を見るまでに実に1年半以上を要したことになります。
ドライ化にあたっては、従来の生パン粉を乾燥する工程が加わるだけですが、乾燥による粒径の低下抑制や焦げ防止など考慮すべき項目はさまざまありました。「投入量、温度、時間、風量など多くの要素の最適な組み合わせを見つけ出すまでに、何度も試行錯誤を重ねることになりました。さらに、乾燥によって米パン粉特有の食感が損なわれないよう、粉砕時の粒径も調整して生パン粉とは粒径を変えました」と山谷さんは開発の苦労を話します。
粒径を粗くすると口触りが悪く、逆に細かくすると砂のような粉になってしまう。何度もトライアルを繰り返し、従来の生パン粉開発の際に最も苦労して適正を見出したパンの粉砕工程を見直してまで、山谷さんたちは顧客からの評価が高い生パン粉と同じ食感の実現にこだわりました。

さらに、ドライタイプに転換することで、賞味期限を従来の150日から180日間に延長でき、同じ内容量でも生タイプよりも水分が少ない分、実質的な体積が大きくなるため多くのパン粉を使用できるようになるなど、使い勝手を向上させました。もちろん、根本的な課題であった慢性的な欠品も、増産ライン整備とドライパン粉化により従来比2倍の生産能力を達成して解決の糸口を見出しました。

料理を楽しむ人たちに新しい食材として届けたい

すでに新商品の販売は開始され「従来品を含めた米パン粉商品全体の(販売開始月である)9月の販売実績が前年比140%に伸長しました。新商品が寄与してくれたと思います」と山谷さんが話すとおり、早くも確かな成果を得られています。また、亀田製菓グループに加入したことで取引先の共有やマーケティング戦略などの連携が可能になり、市場拡大を一層図れるようになったといいます。

冷凍食品と感じさせない料理を楽しむ人たちに新しい食材として届けたい

こうして安定した事業基盤のもと、小麦パン粉では体感できない独特の“カリサク食感”と、アレルギー特定原材料等28品目不使用などアレルギーフリーへのニーズも満たした新しいドライタイプの米パン粉が完成しました。大仕事を成し遂げた山谷さんに今後の展望を最後に聞きました。
「独特の食感を活かして、料理を楽しむ人たちにとっての新たな“こだわり食材”になれればと思っています。また、慢性的な欠品で以前は提案しづらかった学校給食市場に今後は積極的に進出していけるようになりました。これからの日本を担ってくれる多くの子どもたちに“カリサク食感”を楽しんでもらい、一人でも多くの笑顔を生み出すきっかけとなる商品にしていきたいと思います」