普段の食事として手軽に買える、米粉食パンの代表商品を目指して

普段の食事として手軽に買える、米粉食パンの代表商品を目指して

東京都中央区のPulvis株式会社(以下、Pulvis)は、神奈川県鎌倉市で、米粉でつくった生ドーナツを提供する「プルビスドーナツ鎌倉店」を運営しています。おいしくて体にも良い国産米粉のドーナツは、地元の方だけでなく観光客にも人気。そこで「同様に米粉を使った食品を、広く提供できるビジネスをはじめたい」とリサーチを重ねる中で、山形大学の研究と米粉商品開発等支援対策事業を知ります。その出会いからどのようにして「米粉100% お米食パン」が生まれたのか、開発を担当する津上遥さんにお聞きしました。

毎日のように食べる食品を通して、米粉の魅力を伝えたい

米粉の魅力である、グルテンフリーであること、体に良いこと、何よりおいしいことを、日常的に食べる食品を通してたくさんの方に知ってほしい。
それが、Pulvisの新商品開発に込めた想いだと、津上さんは話します。

「私自身、初めて鎌倉のカフェで提供されている米粉の生ドーナツを食べたときに、そのおいしさに驚きました。小麦粉でつくったドーナツと違いがわからない。むしろ、ふんわり・しっとりとした食感をとても好きになったんです。もっとたくさんの方に喜ばれる米粉の製品をつくりたいと思いました」

その想いを実現するために、商品として選んだのが「食パン」。それもスーパーやコンビニエンスストアで手軽に買えるような食パンを目指しました。ただ、現状では大手メーカーが小麦粉でつくる食パンが主流。それらとの差別化をどうすれば実現できるか、手に取ってもらえるかが課題となりました。

毎日のように食べる食品を通して、米粉の魅力を伝えたい

「おいしいことはもちろんですが、価格も重要。そのためには安定して大量に製造できる生産体制の確立が必須です。Pulvisにはそういった施設がなかったため、新しく食品をつくる小売ビジネスを始めるには、最初の投資額の大きさがネックに。でも、本事業の存在を知り、資金の課題を解決する目途がつき、チャレンジは大きく前進しました」

津上さんが話すように、本事業を活用して、厨房機器であるリターダーホイロ、ベーカリー用デッキオーブンなどを購入、量産までが可能な環境が整えられました。ただ、新商品開発の課題はそれだけではありませんでした。

おいしいのは当然。安定して高品質の製品を量産できることが重要

おいしいのは当然。安定して高品質の製品を量産できることが重要

「米粉でつくると、食パンがふくらまないことがあります。また、製造する日の条件によっても発酵に差が出て、クオリティが変わってくる。いかに安定した品質で大量につくれるかが課題となりました」

ドーナツを米粉でつくっていたことから、米粉の特性を把握し、ノウハウも持っていたPulvisですが、より繊細な調整を必要とする米粉での食パン製造には苦戦したそうです。中でも、小麦粉と違ってグルテンを含まないため、発酵がうまくいかずに膨らみが出ない、時間が経つと腰折れするという点にはかなり苦労したといいます。それを乗り越えることができたのは、山形大学の研究と出会えたからです。

山形大学の認定先端フードテクノロジー研究グループ(Advanced Food TEChnology Research Group in Yamagata University:通称:AFTEC)では、デンプンのアルファ化技術を研究しています。そのひとつ「YU-アルファ化米粉技術」は、米粉100%でグルテンフリー食パンをつくることができる技術。具体的には、米粉をアルファ化させることで疑似グルテン(糊化デンプンのネットワーク)として機能させ、小麦グルテン同様にパン生地に粘弾性を与え、発酵ガスを包みこんで生地のボリュームを最大化させることができる技術です。また、デンプンの損傷率も低いため、給水時の粘度上昇が抑えられ、イーストの発酵が阻害されず、腰折れが防げます。つまり、小麦粉のパンと同様に、しっかりと発酵して、焼成後に時間が経ってもふくらんだままの食パンとなるのです。Pulvisは山形大学と提携して「YU-アルファ化米粉技術」を使い、スーパーなどの小売店で数日陳列することが可能な食パンをつくることができたのです。

「ただ、理論と技術はあっても、それを使って製品を完成させるまでは長い道のりでした。まず、しっとりとした生地を実現するため、加水を1%刻みで調整して、アルファ化米粉の吸水能を最大限発揮できる最加水ポイントを探りました。そのほかにも、気泡を均一に分散させる生地の攪拌時間や最適な焼成時間を検証するなど、数多くの試験を行いました」

山形大学との提携から、製造実現までの各種試験にも本事業が活用されました。そうして完成したのが「米粉100% お米食パン」です。

「ただ単に『小麦の代わりに米粉を使った食パン』ではなく、『米粉を使ってほんとうにおいしい食パン』を目指し、実現できました。関係者向けに試験販売を行いましたが、『おいしい』『米粉パンのイメージが変わった』と好評でした」

ほとんどの方が、小麦のパンとの違いがわからない、と驚いていたと津上さんは話します。それ以外にも、焼いたときの芳ばしさやサクッとした食感、米粉由来の甘み、腹持ちの良さなどが小麦粉パンより好評だったといいます。

「目指していた『おいしくて毎日食べてもらえる食パン』は完成しました。現在はテスト販売の結果を受けて、さらなる味のブラッシュアップと、常に均一の品質で量産できる体制の確立を目指しています。並行して販売してもらえる小売店を探しての営業活動も行っています」

おいしいのは当然。安定して高品質の製品を量産できることが重要
日本を代表する米粉食パンを目指して、様々な活動を準備中

日本を代表する米粉食パンを目指して、様々な活動を準備中

日常食としての米粉食パンを普及させるためには、まだまだ克服すべき課題が多いと津上さんは話します。

「調査した結果『興味はあるが、通常のパンより価格が高いから購入しづらい』という声が多く聞かれました。その既成概念を覆すために、毎日の食事として選んでもらえるよう、安価に抑えられるよう生産コストを調整しています」

その他、認知度アップのために、目につきやすいパッケージやPR方法を考えていると言います。パッケージでは、大手メーカーの小麦粉の食パンが目立つ原色の赤や青を全面に押し出したデザインなのに対して、日本らしさや生成りをイメージしたカラーリングで和のテイストを強調し、「お米食パン」という商品名が目立つデザインを採用しました。大手の逆を敢えて行くことで、ギャップで売場での存在感を発揮させる戦略です。

「LPやWeb広告では、更に踏み込んでグルテンフリーである特長やブランドストーリーもしっかりアピールしています。まずは工場のある山形県のローカルスーパーで販売をスタートし、その売れ行き動向や購入者からの意見を反映してブラッシュアップし、徐々に大規模消費地である首都圏などでの販売を開始したいと思っています」

それに合わせてInstagramやTikTokなどのSNSでも強力にPRを行うため、現在からクリエイティブの準備を進めていると津上さんは話します。

今回、初めて小売用の商品開発と製造環境整備にチャレンジしたPulvis。いままで直面したことのない課題やトラブルを、ひとつずつ解決して商品化を実現する中で、社内の意識も大きく変わっているのを感じているそうです。

「パン製造に携わったメンバーは、しっかりと米粉の特性をつかむことができました。また、山形大学の技術を活用すれば、どんな米粉でもおいしくパンをつくれることもわかりました。現場では『こんな味種のパンなら、日本全国でも売れるのではないか』『食パン以外の米粉食品にも挑戦してみたい』など様々なアイデアが盛んに出されるようになっています」

まずは米粉食パン、その成功を経て、様々な種類の米粉パンを世に出していきたい。そうして体に良い米粉パンの魅力を広めたいと津上さん。そうして、「米粉なのに」ではなく、「米粉だから」おいしいパンだと、すべての人に認識してもらいたい。「おいしい米粉食パンといえば、Pulvisだよね」と言われるよう、がんばっていきたいと話してくれました。

日本を代表する米粉食パンを目指して、様々な活動を準備中

※本記事は2026年2月時点の情報です