「米粉だからこそ」のおいしさを、農家の想いとともにお届け

「米粉だからこそ」のおいしさを、農家の想いとともにお届け

美しい白壁の街並みが観光客を引き寄せる岡山県倉敷市で、パティスリー「LIME D’OR(ライムドール)」を運営するBAKED I。代表を務めるのは、ホテルや結婚式場でパティシエとして経験を積んできた渡辺愛さんです。彼女がつくる米粉クッキーはお客さんからとても好評だといいます。そんな渡辺さんがいま挑んでいるのが、米粉商品開発等支援対策事業を活用して開発した「米粉フィナンシェ」。小麦粉の代替品ではなく、米粉という素材そのものの可能性を引き出したその一品について渡辺さんに聞きました。

小麦の代替ではなく「新しい食文化」を担う米粉

渡辺さんが米粉菓子を通じて届けたいのは、単なる「おいしさ」や「グルテンフリーの機能性」だけではありません。
「以前は私自身、米粉のお菓子はどこか硬くてパサつく、おいしくないものだと思い込んでいました」と渡辺さんは率直に振り返ります。そんな彼女の意識を変えたのは、お客さんからの「子どもが安心して食べられる、やさしいお菓子をつくってほしい」という切実な声でした。

その思いに応えるべく、素材と向き合う日々を過ごした渡辺さん。そうして、生産者が無農薬にこだわって育てた富山県産米を使ったきめ細かな米粉に出合い、米粉の魅力に引かれていきました。「米粉には雑味がないので、合わせるバターの香りやアーモンドの風味、卵のコクなどがダイレクトに伝わるんです。つまり、素材の良さが際立つ。これは米粉にしかできない表現です」と米粉の“純粋さ”という魅力について語ります。

小麦の代替ではなく「新しい食文化」を担う米粉
小麦の代替ではなく「新しい食文化」を担う米粉

今回開発された「米粉フィナンシェ」は、米粉ならではのしっとり感と、焼成温度を緻密に調整することで生まれる表面の香ばしさが最大の特徴です。ほかの洋菓子も試作しましたが、米粉だからこそおいしくなるという確信を持てたのが、フィナンシェだったそうです。米粉商品開発等支援対策事業を活用してオーブンやフードプロセッサーなどの機材を新たに導入したことで、品質の安定と製造能力の向上が実現できるといいます。しかし、どれだけ技術を磨き、設備を整えても、渡辺さんの心の中には常に「素材への敬意」がありました。

農家さんの想いを「作品」へと昇華させる使命

渡辺さんがお菓子づくりにおいて最も大切にしていることは「素材づくりに携わる人たちがいてくれるから、このお菓子ができる」という感謝の気持ちだといいます。
「お米一粒ができるまでに、農家さんはどれほど心と力を注いでいるか。その想いを預かり、私はパティシエとして最後の一工程を担っているに過ぎません。私にとってお菓子は『商品』ではなく、農家さんの想いと私の技術が合わさった『作品』なんです」

自ら生み出す菓子を「作品」としてとらえ、その背後にある農家の米づくりに込める想いまでを、自らの米粉菓子に乗せて次世代につないでいくことこそ、日本の米文化を守るきっかけになるはずと、渡辺さんは続けます。米粉に真剣に向き合う中で、米の品種やその年の出来、さらには製粉所の仕事ひとつで、出来上がる菓子が劇的に変わることを学んだ渡辺さんは、つくり手のこだわりが詰まった素材を厳選し、その価値を最大限に高めて消費者に届けることが、自身の使命だと考えています。

農家さんの想いを「作品」へと昇華させる使命

渡辺さんはまた、「『グルテンフリーだから』という理由だけで米粉商品を選ぶのではなく、純粋に『おいしいから、お米(米粉)ってすごいね』と米粉菓子を選んでほしい」といいます。
お客さんがおいしさに感動し、その背景にある農家さんの努力までも想像する。その瞬間、お客さんはただの消費者ではなく、日本の農業を守る「応援者」へと変わります。このポジティブな連鎖こそが、LIME D’ORが目指す理想の姿だと渡辺さんは熱い思いを語ります。

みんなで一緒につくる、日本の米文化の未来

みんなで一緒につくる、日本の米文化の未来

「LIME D’OR」という屋号は、愛犬「来夢」くんと、フランス語で「光り輝く」を意味するD‘ORから付けられています。「多くの人に夢と幸せを届け、光り輝く人生になれるように」という渡辺さんの願いが込められています。

現在、渡辺さんの米粉菓子は自社ECサイトに加え、地元の美容院でも販売されており、新商品のフィナンシェも間もなく加わります。さらに新しい機材の導入による製造能力の向上で、ギフト需要や百貨店のオンラインショップなどへの販路拡大も実現させ、今年の目標である月100個の売上げを達成していきたいと渡辺さんは話します。
「お客様も、農家さんも、私も、みんなで一緒になっておいしさをつくっていきたいんです。そうすることで、日本の美しい水田風景やお米を大切にする文化をこれからも残していける力が少しずつ増えていくと願っています。それが、私が米粉でお菓子をつくっている一番の理由です」(渡辺さん)

「米粉に出合えたことで、自分の中に本当に大切なものができました。ある意味米粉は私の一部」と話す渡辺さんの挑戦は、単なるパティスリーの枠を超え、日本の伝統や農家の想いを守るための活動でもあります。一粒のお米がフィナンシェという形に姿を変え、誰かの笑顔を生み出す。その小さな循環が、やがて日本の米文化を再生させる大きな力となっていく。LIME D’ORの「作品」には、そんな熱い想いがしっとりとした甘みとともに詰まっているように感じられます。

※本記事は2026年1月時点の情報です