いわき発、発酵と米粉で新しいビスコッティのかたち

いわき発、発酵と米粉で新しいビスコッティのかたち

福島県いわき市に工房を構えるBis Carina(ビスカリーナ)は、ビスコッティ専門の菓子店です。オーナーの佐藤紀子さんは、35年以上にわたりビスコッティを焼き続けてきました。「手づくりのおいしさを届けたい」という思いから始まった菓子づくりです。

転機となったのは25年前、アレルギーを持つ知人とのレシピ交換でした。「卵や乳製品を使わないビスコッティを試作したところ、こちらのほうが断然おいしく感じました」と佐藤さんは振り返ります。野菜などの素材の味がより前面に出ることに気づき、ヴィーガン仕様へと舵を切りました。

米粉と向き合った先に「ビスチップ」という答え

やがて高まるグルテンフリー需要を背景に、4年前には主原料を小麦から米粉へ転換しました。しかし、米粉のビスコッティ生地は二度焼きすると硬くなりやすいという課題がありました。「一度焼きなら硬くありませんが、ビスコッティは二度焼きする菓子のことなので、その工程を省くわけにはいきません」と佐藤さん。試行錯誤を重ねた末にたどりついたのが、約5ミリの薄さにスライスしたチップ状の形です。硬さを抑えながら、噛むほどに素材の風味が広がる独自のかたちが生まれました。

この形状をヒントに名付けたのが「ビスチップ」です。当初は気軽な発想から生まれた名称でしたが、商談会でその独自性が評価され、商品名として定着しました。

米粉と向き合った先に「ビスチップ」という答え
発酵という新たな挑戦と、量産体制への転換

発酵という新たな挑戦と、量産体制への転換

ビスチップが定着するなか、佐藤さんは味わいのさらなる深化を模索していました。発酵食品ソムリエ資格を取得したタイミングで着目したのが、日本の発酵文化を象徴する麹菌です。「自家製塩麹を取り入れることで、米粉の風味にもう一段の奥行きを加えたかった」と佐藤さんは語ります。

当初は日本酒に合う塩味のビスチップを構想しましたが、塩麹だけでは生地が十分に膨らみません。試行錯誤の末、塩麹に砂糖を組み合わせることで深みと膨らみを両立できることを見出しました。オクラパウダーを加えるなど、できるだけベーキングパウダーなどの添加物の量を控える工夫も重ねています。米粉も複数の種類を検証。地元いわき市産コシヒカリの米粉のみでは焼成時に油分が浮き出る課題があり、最終的に二種を独自にブレンド。アーモンドプードルや油脂の配合、水分量を細かく調整し、発酵のコクと食感の両立にたどり着きました。

もう一つの課題は生産工程でした。約5ミリの厚さに均一にスライスするのは手作業に頼っており、日々の負担が大きく、販路開拓などに十分な時間を割けずにいました。米粉商品開発等支援対策事業を活用してカット機を導入したことで、安定した厚みでの加工が可能となり、生産効率は大きく向上しました。

「これで商談会に行く時間が確保できました」と喜ぶ佐藤さん。あわせて新シリーズのパッケージも刷新。海外展開も視野に入れ、リサイクル可能な紙素材を採用しました。本事業が、ビスチップの進化と生産体制の整備という二つの課題を同時に解決する転機となりました。

素材の力を生かす菓子づくりを、地域とともに

「米粉の発酵ビスチップ」は、イベントなどの試食の場で好評を得ています。「素朴だが後を引くおいしさ」「噛むほどに味わいが深まる」といった声が寄せられ、麹の有無による味の違いにも注目が集まるなど、発酵という切り口が確かな手応えとなりました。

「『本当の味がする』という感想がいちばんうれしい」と佐藤さん。使用する野菜は主に地元生産者から仕入れ、形が不揃いなものや規格外品も積極的に活用することで、農家のフードロス削減にもつなげています。にんじん、かぼちゃ、さつまいもなど、ペーストに適した米粉と相性の良い食材を選定し、素材そのものの風味を引き出す菓子づくりを続けています。

地元農家からの依頼によるOEM製造にも取り組み、ブルーベリーやさつまいもなどを使った専用商品の開発で生産者のイベント出展を支援するなど、地域産品の販売促進にも貢献してきました。こうした連携で培った経験は、新シリーズにも着実に生かされています。

今後は既存の卸契約を着実に履行しながら生産体制の安定化を図り、国内販路の拡大と海外展開を進めていく方針です。よもぎや梅、珈琲、そば麹など新フレーバーも検討中で、将来的にはパッケージの統一によるブランド強化も視野に入れています。

ヴィーガン・グルテンフリーのビスコッティは市場にも存在しますが、発酵・植物性素材・米粉・日本素材を掛け合わせた点が本商品の際立つ特長です。イタリアの伝統菓子に日本の発酵技術と地域の農産物を融合させた米粉菓子は、着実に次の段階へ歩みを進めています。

素材の力を生かす菓子づくりを、地域とともに

※本記事は2026年2月時点の情報です