体験をデザインする米粉菓子、新たな販路を拓く

体験をデザインする米粉菓子、新たな販路を拓く

大分県宇佐市を拠点に、母と三姉妹の家族経営で米粉菓子の製造・販売を行うC'est du nananは、「本当に大切な人に食べてほしいと思える贈り物」をコンセプトに、贈答用を中心とした米粉菓子を展開してきました。2019年にはグルテンフリーの米粉菓子専用工房を整備し、東京にも出店。品質や食感に配慮した商品設計により、健康志向や素材重視の消費者層から支持を得ています。さらに一歩を踏み出した今回の取り組みについて、新商品開発とプロモーションを牽引した三姉妹の末っ子、時永絵美さんに聞きました。

大切な人への贈り物から、体験の場へ

「誰に、どんな場面で食べてもらうのかを常に考えています」と時永さんは話します。家族経営ならではの距離感の中で、贈る相手の顔が思い浮かぶ商品設計を大切にし、米粉のやさしさや安心感を軸に、食感や口どけといった体験にまで踏み込む姿勢で、ブランドの基盤をつくってきました。

一方で、「グルテンフリーに関心のある方だけでなく、これまで関心のなかった方にも、米粉の魅力を知ってもらいたい」という思いが強まったといいます。そのためには、従来のギフト中心の販路にとどまらず“体験の場”を広げる必要があると判断しました。

大切な人への贈り物から、体験の場へ
大切な人への贈り物から、体験の場へ

そこで、米粉商品開発等支援対策事業を活用し、映画館や観光拠点などへの展開を見据えた4種の新商品開発に着手しました。その中でも代表的な「音スイーツ」は、菓子に付属するQRコードをスマートフォンで読み取ると、それぞれの食感や世界観を表現した楽曲が再生される仕掛けです。「サクサク感やふんわり感を音で表現できたら、五感で楽しんでもらえるのではないかと思いました」と時永さん。米粉菓子の新たな可能性を提示しました。

繊細な米粉の「食感」をどう守るか

新たな販路を見据えた商品開発で、最も重視したのは、米粉ならではの「食感」です。「米粉は繊細な素材で、配合や焼成条件がわずかに変わるだけでも仕上がりが大きく左右されます」と時永さん。C'est du nananでは、7種類ほどの国産米粉を商品ごとに使い分け、ブレンド比率を調整することで、しっとり感や歯切れの良さなどの微妙な違いを表現してきました。

しかし、映画館や観光拠点といった新たな販売環境では、従来以上に安定した品質が求められます。とくに映画館限定フードとして開発した「もちもちベーグルボール」では、サイズ設計が大きな課題となりました。手軽さを意識して小さくすると水分が抜けやすく、理想のもっちり感が短時間で失われてしまいます。配合や焼成温度、サイズを見直し、試行錯誤を重ねた結果、現在の仕様にたどり着きました。さらに、提供直前に温めるオペレーションを導入することで、食感を保つ工夫も行っています。

繊細な米粉の「食感」をどう守るか
繊細な米粉の「食感」をどう守るか

「ふわり」と「御米のどら焼」は、ポップアップストアでの販売を想定し、お土産の箱入りだけでなく、単品売りで食べ歩きしやすい個包装の設計を重視しました。御米のどら焼は、既存の米粉のどら焼の生地を改良し、アイスサンドとしても活用できる仕様にしています。販路に応じて商品仕様を見直すことも本事業の重要な取り組みです。

国内外で広がる体験価値、定着から次の展開へ

本事業を通じて開発した新商品は、それぞれの販路で具体的な成果を生み始めています。東京タワーでのポップアップストアに出品した「御米のどら焼」は、特に海外客から「これがグルテンフリーなの?」と驚きの声が上がるほど好評を得ました。「ふわり」も国内外の来場者に支持され、お土産物売り場での取り扱いが決まりました。観光客が手に取りやすい個包装設計や軽やかな食感が評価された結果です。

国内外で広がる体験価値、定着から次の展開へ
国内外で広がる体験価値、定着から次の展開へ

また、映画館で展開した「もちもちベーグルボール」は、ポップアップでの反応を受けて正式なフードメニューとして採用されました。体験型商品の「音スイーツ」は、映画鑑賞後に持ち帰って楽しむという提案も支持され、米粉菓子が新たなシーンに定着しつつあります。

さらに、海外での展開も具体化しました。シドニーでのポップアップは、現地の食市場の動向を身近に感じていた姉の提案をきっかけに実現したものです。会場では「日本のグルテンフリースイーツ」という点に強い関心が寄せられました。「特に米粉特有の食感や味わいは現地のお客様にも新鮮に映り、大変温かい反響をいただきました」と時永さん。グルテンフリーのみならず、健康志向や日本文化に関心のある人々にも広く受け入れられました。

国内での販路定着と国外での好反応は、体験を通じて米粉の魅力を伝える取り組みが確かな手応えを得ていることを示しています。今後は販路ごとのニーズを踏まえた商品改良やパッケージの開発、発信方法の工夫を進めつつ、従来のギフトに加えて文化施設、商業施設、海外展開など販路を多角的に開拓し、米粉商品の市場拡大と継続的な需要創出につなげていく考えです。

「米粉は日本の食文化そのものだと思っています」と時永さん。本事業で得られた成果と経験は、次の挑戦への確かな土台となりました。

※本記事は2026年2月時点の情報です